知床の自然保護 ( 100平方メートル運動 )
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉

 ”しれとこで夢を買いませんか”という一枚のパンフレットに誘われて、子供二人の名義で知床に土地を買ったのは約一年前のことである。だが、これは土地を買ったのではなく、やはり夢を買ったのである。この土地は使えないのである。ただ、知床を自然のまま残し、その姿をいつか子供に見せてやろうという夢である。

 ウトロを経て知床五湖へ行く途中の岩宇別地区は、戦後、開拓地として多くの人が入植したが、土地事情が悪く離農者が続出した。昭和39年に国立公園に指定され、知床の名前が全国に知られるようになると共に、最近の土地ブームにのって、不動産業者や観光業者が離農跡地に目を付け、買いあさり始めた。いったん企業の手に渡れば乱開発されるのは目にみえており、斜里町では土地所有者を指導したり、買収したりして保全に務めてきたが、自治体の財政には限界があるため市民運動として進めてゆこうというものである。この運動は、離農跡地120ヘクタールを一括買収して、そこに木を植え自然保護と土地保全を図ろうというもので、運動の方法は次のようなものである。

 1)120ヘクタールの土地を100平方メートル単位にして分譲の形式をとるが、土地の
   文筆や所有権の移転登記はしない。斜里町が一括管理する。
 2)価格は100平方メートル当たり8,000円とし、一人1,000平方メートルまで。
 3)土地には植樹して緑を回復させる。記念植樹をする。
 4)登録台帳を整備し、登録者の名前は現地に標示する。

 この運動は全国的な広がりを見せ、参加者は今年3月現在2,724人で、3,001万円の金が集まった。これに北海道の振興基金3,970万円を加えて、120ヘクタールの一括買上げを終えた。

 このように、運動は一応の成果を上げてきたが、未だ民有地として残されている土地についても買上げを進めるため、引き続き運動を継続する予定である。

 南アのスーパー林道など、自然保護運動があるが、この知床の”100平方メートル運動”はユニークなものであり、かつ実効のあるものとして興味深い。日本の国立公園の中で最も自然度の高い知床を夏の自然公園として残してゆくために、”夢を買う”人は居ませんか。

昭和54年OB会報NO12より抜粋