妙高から雨飾山へ OB山行
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉
 荒菅沢から2ピッチで稜線に飛び出すと、気持ちのよい笹のゆるやかな稜線が頂上に向かってのびている。笹を渡る風が心地よい。最後短い急登を登るとようやく頂上である。26期のみんなはまだ来ていないようである。風をさけてコーヒーを沸かし、昨日登った火打山方面のスケッチを描きながらみんなを待つ。

 1時間程待っていると、稜線直下の急登を登っているそれらしきグループが見える。緑色のシャツ、ネジリ鉢巻きを頭に巻いた短パン、5人がバラバラのようでもあり、同じグループのメンバーのようでもあり・・・。待っているのに、頂上直下で昼メシを食い始める。おまけに、頂上に着いても、我々が待っている方のピークには来ずに、もう一つのピークで休んでいる。仕方がないので、こっちが移動する。

 1年ぶりの再会である。去年剣岳で会っただけなのに、小原さん(4期)は初対面なのに、やはり昔からの山中間のような気がする。ネジリ鉢巻きに短パンはやはり平田くん、去年と同じワンゲルシャツは伊田くん、北村くんは相変わらず魚のソーセージと食パンである。小泉くんと小松くんは今年が初対面である。聞けば、2日酔いでペースが上がらない人がおり遅れてしまったとのこと。

 結局頂上で2時間ゆっくりした後、来たコースを引き返す。26期のみんなは下りはめっぽう早い。沢まで下ると今度はみんながのんびり待っていた。朝は正面から陽が当たって明るかった岩壁も、深い陰ができており一段とすごみが増して見える。

 駐車場からは定員オーバーで小谷温泉山田旅館へ。山に来て、帰りに温泉に入ることはあっても、旅館に泊まるのは初めてである。帰る日の15日は、朝から台風による雨に見舞われた。1日ズレていたら悲惨な目にあうところであった。



 
 とにかく9月14日の晩に山田旅館に行くということだけを決め、小原さんと12日の朝早い新幹線で長野まで行き、燕温泉ヘタクシーをとばす。燕温泉からは沢沿いのコースをとる。沢から離れ一気に急斜面を登り、トラバース気味に進むと黄金清水に着く。山の水場はりっぱな名前がついている所が多いが、苦労して登ってきて旨い水に出会った時には、その名前が「さもありなん」という気になる。

 長助池はちょっとした湿原でなかなか感じがよいところである。分岐に荷物を置いて妙高山頂に向かう。なかなかの急登である。山頂付近は潅木帯か草の生えたザレ場のようなイメージを持っていたが、高い木におおわれている。頂上直下でバテバテになり、「何か食おう」とどちらからともなく悲鳴をあげた。頂上はそこからわずか5分、バテた時はこの5分がどうにもならない。

 黒沢ヒュッテに着いた時にはもう薄暗くなっていた。いい季節とあって、ヒュッテは超満員である。やはりテントは楽しいわが家である。夜は天の川もよく見えた。



 13日は素晴らしい天気である。紅葉が朝日に輝いている。ヒュッテの前からゆるい登りを登ると湿原が見渡すことができる。それ程広くはないが、色づいてきれいである。1時間程で高谷池小屋に着く。小屋の前に荷物を置いて、火打山に向かった。途中の天狗の庭は非常にきれいな湿原である。小さな池塘が鏡のようにたおやかな火打山を写している。妙高とは異なり、火打ち山は潅木に覆われた山で、非常に明るい。こういう山はいい!

 頂上は気持ちよい所である。遠く、北アルプス、中央アルプス、南アルプス、八ヶ岳、富士山が見渡せる。焼山の肩越しにこれから行く雨飾山が見える。標高は火打山よりかなり低いが、遠目にも岩壁に固められているのが分かる。頂上でコーヒーを沸かし、スケッチをしてから下る。こののんびりが後々地獄の強行軍につながるとは。

 焼山が登山禁止なので、高谷池からいったん下り、林道を小谷温泉まで歩いて、雨飾山に登りかえすことにする。林道に出た時はもう3時である。これから長野県まで林道を歩くのは気が重い。

 車両通行止めの林道はただただ根気よく歩くしかない。暗くなりかけた頃ようやく峠のトンネルに着く。 トンネルの中間に県境の標識がある。 トンネルを抜けると長野県側の電気の光が見える。暗くてよく分からないが、崩れそうなガケがしばらく続く。テン場によさそうな所を探しながら歩くがなかなかない。8時半過ぎたらどこでもいいから泊まろうと思っていたら、ちょうどその時間になった時に、林道脇に広く平らな所があり、近くに沢もある所に出会った。これ幸いとテントを張る。翌日になって分かったが、その先にもテントを張れる場所はなく、まったく幸いであった。それにしても13時間以上もよく歩いたものと、我ながら感心する。




 14日もいい天気だ。30分程で小谷温泉からの道に出る。遊歩道を少し入った所にザックを置き、雨飾山に向かって自動車道路を歩く。26期の連中が車で来ないかと後ろを振り返りながら歩いているうちに、とうとう駐車場に着いてしまった。これで、昨日の国民休暇村から全部歩いたことになる。後で聞いた話では、こっちが駐車場を出発した10分後に車で着いたとのことである。

 15分程沢筋を歩いたところから急な取り付きが始まる。道がトラバース状になるとやがて、急に目の前に荒菅沢上部の荒々しい岩壁が現れる。正面から陽を受けて、岩が白く光っている。ここからが急登の連続である。26期のみんなとの再会を楽しみに、とにかくただひたすら登った。
平成10年OB会報NO29より抜粋