北岳バットレス第4尾根クライミング
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉・良子(タック&オギャー)

 27期の平塚晶人君の著書「二人のアキラ、美枝子の山」で描かれている松濤明が初登攀し、奥山章が冬季初登攀した中央稜は、ガスの中、バットレスCガリーの奥に不気味にそそり立っている。
 「どうする?」、「ここから戻って、明日また登り返すのもイヤね」、「抜けれなかったら壁の途中でビバークでもいいか?」……下部岩壁にたどり着いた時の会話である。マイカー規制のため、広河原でバスを降りたのは8時過ぎ、それから延々と大樺沢を登り、バテバテで下部岩壁(Bガリー)に着いたのはもう昼過ぎであった。とにかく登れるところまで登ることにする。

 オギャーのリードでBガリー大滝右側の茶色のフェースに走っているクラックから取付く。2ピッチでBガリーの岩場を抜け、草付帯の踏み跡を暖傾斜帯まで登り、水平の踏み跡を辿ってCガリーに出る。岩屑がガラガラしているCガリーの奥にはかの中央稜が見える。

 第4尾根取付きに着いたのは15時少し前、これならなんとかなるような気がして元気が出る。1ピッチ目はルートの核心部の一つであり、オギャーのリードで正面のクラックから取り付く。最初のピンがちょっと遠いので、念のためフレンズをセットする。その後は3ピッチほど簡単なスラブを登ると、第2の核心部、数mの垂壁となる。クラックを掴みながら三角形の傾斜のきついフェースをバランスよく登る。垂壁を登った後、高度感抜群のリッジを辿るとマッチ箱のピークとなる。まだ17時前、これならなんとか抜けることができそうと、ホッとする。

 マッチ箱のピークからDガリー側に10mほど懸垂下降する。ガスでよく見えないが、左側にDガリー奥壁の赤っぽい色の見事なスラブが広がっており、登攀意欲を誘う。マッチ箱側の凹角から登り始め、スラブからリッジに出る。途中でルートは二つに分かれるが、オギャーは右の難しいルートを登り続けた。登ったのはいいが、枯れ木テラスまでは届かず、途中の岩にスリングを回してビレイしている。

 狭い枯れ木テラスから右下に少し下ったところに、中央稜へ向かうための懸垂支点が見える。無気味なところである。枯れ木テラスからはDガリー奥壁右端のバルジを越え、簡単なスラブを登って終了点となる。18時、どうにかヘッドランプなしに登ることができたが、暗闇が迫ってきている。

 ヘッドランプを頼りに踏み跡を辿って縦走路に出た途端、西風が吹きつける。濃いガスの中、磁石で北の方角を確認し、とにかく登れるところを登っていくと、急に「北岳3192m」の標識にぶつかる。「とにかく辿り着いた」という安堵感が湧いてくる。

 頂上から肩の小屋への岩尾根のルートはまったく分からない。ヘッドランプで見えるのは白いガスばかりで、岩の向う側がみんな断崖のように見えてしまい、苦労する。1時間ほどで諦め、フリースと雨具を着込み、ツェルトを被って岩陰でビバークする。
夜半から雨模様となる。翌朝見たら、ビバーク地点は縦走路の上であった。小屋の手前15分、時間はかかったが、正確に下りてきたようだ。小屋の熱いウドンがやけに美味かった。

1P目をリードするオギャー
平成16年OB会報NO35より抜粋