山を走る
〜山岳耐久レース「長谷川恒男カップ」〜
22期(昭和58年卒) 西川 雅明
 夜の山道、金比羅尾根の出口。もう前後に他の選手はいない。車道に出たら、あとは無理をしてでも走れ。体は泥だらけ。足は重たいが、もうゴールは見えている――――10月10日、午前0時23分、僕の耐久レースは終わった。五日市から三頭山を周回する71.5km。11時間23分23秒。2018人の出走者中57位。50位以内を目指していたが、もうどうでもよくなっていた。走ることが僕の愉しみだ。

 何も運動しなかった30代。山岳会に入り月2回ペースで近郊の山に通った40代。まともなトレーニングを開始したのは、ほんの1年半前のことで、僕はこれまで決してまじめなランナーではなかった。もちろんマラソン経験はあったけれど、それは20代後半の一時期のこと。ワンゲルを卒業してから二十余年の大半は、日常の多忙に打ちのめされていた。それに1年半前に走り始めたのも腰痛のリハビリが目的。きわめて不健康なランナーだった。

 日常的な多忙は最近も続いている。レース直前の9月は、あるプロジェクトの準備で、オフィスで夜も資料作りに励む日が続いた。それでも毎日9時半には仕事を切り上げ、10時からジムのマシンで10km走ることを日課とした。そして土日のうちどちらかは、奥多摩の山を20〜30km走った。時間が取れないときには職場のある渋谷から稲城の自宅までの28kmを走って帰宅した。そんなハードなトレーニングの結果、9月の月間走行距離は420kmにもなっていた。体重は57kg台まで落ちた。

 「何故走るのか」と聞かれる。走ることに理由はない。ただ走っている状態が好きだ。あらゆるこだわりが取るに足りないことに思える瞬間がくるからだ。「この多忙の中で走ってよく疲れないね」と不思議そうに聞かれることがある。そうではない。多忙だから走ることで精神の均衡が保たれるのだ。そんな気がする。そんな気がするから走り続けている。

 11月27日、河口湖マラソンを走った。2時間55分36秒、サブスリー達成。生涯レコードだと思っていた○2歳の時の2時間58分を更新した。まだいけるかもしれない。だけど、僕も1月で46歳。これからは年齢の壁とも闘わなければならない。

* 第13回 日本山岳耐久レース「長谷川恒男カップ」
URL:http://www.togakuren.com/13th-taikyu/13th-top.htm

平成17年OB会報NO36より抜粋