黒部の巨人・丸山東壁 左岩稜を登る
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉(タック&オギャー)
 壁をどこまで登っても内臓助谷の流れの音が響いてくる。夏の暑い日差しの中、去年から目標にしてきた黒部の巨人・丸山東壁に取り付いている。眼下には内臓助谷が広がっており、素晴らしい高度感である。

 8月28日6時30分、前日確認しておいた取付きから登り始める。岩登りのイメージとはほど遠い枯葉の堆積した急斜面の登りからから始まる。尾根筋に沿ってさらに藪漕ぎが続けるとようやく岩が出てくるが、ボルトやハーケンが見当たらない。とにかく潅木や木を頼りに登れそうなところを登るが、なかなか先が読めない。

 3ピッチ目の途中からようやくすっきりとした岩になり、カンテに沿ってボルトが連打されている。とりあえずルートが間違っていなかったことがはっきりし、ほっとする。アブミを使ってボルトラダーを登り、カンテの途中にあるビレイ点でピッチを切る。

 4ピッチ目の出だしは10mほどのいやなトラバースである。中ほどでスタンスの使い方がぎこちなくなり、落ちるかと思った。フェースの左側に来てみると、カンテのすぐ右側にボルトラダーがあるが、数m木登りしないと届かない。木の枝に3ケ所ほどランナーをとりながら登り、ボルトにアブミをかける。この岩に移るところが恐いという話であったが、実際やってみるとどうということもない。

 5ピッチ目も悩ましいピッチである。ごつごつした凹角を登ると、大きな岩に行く手を阻まれるようになる。いったいどこを登れと言うのだろう。大岩の左を覗いてみると、ジメジメした急斜面に木があるので、奥の木を頼りジェードルを登る。この上のバンドを右にトラバースし、フェース右端のカンテを人工で登ると安定したテラスに出る。はるか下を内蔵助平谷が流れている。急いで帰るわけではないのでのんびりランチタイムとする。いい天気になり、太陽が暑い。

 6ピッチ目からリードをオギャーに代わる。7ピッチ目からはフェースの登りであるが、ボルトラダーがなく、左上気味のクラック沿いにほとんどフリーで登る。ハーケンが少なく、頼りないブッシュでランナーを取る。技術的にはそれほど難しくはないが、クラックには泥が詰まっており、疎らな草付きとなっているので、滑らないよう神経を使う。リードのオギャーは、ゆっくりであるが着実に登っていく。下からは見えないが、フェースの途中にビレイ点があり、そこでピッチを切る。

 8ピッチ目はまっすぐ上に伸びているボルトラダーの単純な人工登攀である。リーチのないオギャーにとってはボルトが遠いのか、たまにチョンボ棒を使って登る。最後は凹角部を右上し、終了点となる。この先もルートは続くが、登攀としては面白くないということなので、これで完登したことにする。常に見える隣の緑ルートの大ハングは登攀意欲を誘う。来年の夏はぜひこの大ハングを突破したい。

   
                4P目のトラバース
平成17年OB会報NO36より抜粋