I GURUST 柴崎芳太郎を追って
( 2008/8/8〜8/13 )
43期(平成16年卒)金谷 健史・山下 絢子、44期(略)吉村 雄祐
 2007年の夏合宿は南ア蝙蝠岳を目指した。山嫌いの女子大生を山の虜にしたという蝙蝠岳、その伝説どおり大きな満足を得た山行となった。ならば今年は北アだろう!ということで、来年映画が公開され、公開後には相当な反響で混雑が予想される(?)山、剣岳を先取りして目指すことにした。

 気合は十分、三回のプレを行った。1プレ、甲武信ヶ岳。雪が残る極寒の頃、澄み切った空気の先に見える富士山は屈指の風格を見せた。2プレ、苗場山。梅雨時期でも楽しめるはずの高層湿原は雪に埋もれたまま全容を見せず、不明瞭で頼りない登山道は急斜面で思いのほか我々に試練を与えた。3プレ、八ヶ岳。夏の気配を感じる晴天と高山植物の花盛り、麗らかな北部と対照的に不安定な足場、急陵な山容の権現岳は来る剣岳への闘志をかき立てた。かくして夏合宿への準備は整った。

 関東前夜発、翌日折立入山というハードスケジュールで始まった夏合宿。睡眠不足でバテまくるも、志気だけ高く持てたのは、わざわざ夏合宿のために発注したお揃いTシャツのお陰かもしれない。初日から天気が安定していたため、背面には北ア南部の穂高や槍、向かう先には剣岳や後立山が常に見渡せる。ここまで好条件で長期山行ができるのは去年の蝙蝠に次いで二度目だろうか。ずっと眺めていても山は何も変わらないのに、なぜか飽きない。まさに絶勝。しかし、こんな素晴らしい環境が整った中にあっても世間には水を差すヤツがいる。とあるピークで場にそぐわない言葉が耳に付いた。

 「槍が超丸見えなんだけどぉ〜!」「ほら、丸見えだよ、丸見え!」・・・『丸見え』ってオイ、品が無いなぁ。何処のどいつだ?!と思って周りを見渡すと、その言葉はつい隣で休む婦女子から発せられていた。しかも同パーティーの。・・・これには他人のフリを決め込むしかなかった。

 山行中、話題には事欠かない。学生時代の話、職場の話、ワンゲル部員の話、登山哲学の話、行きたい山の話、そして色恋の話。年頃を迎えた我々が一番時間を割く内容は決まっている。どうやって口説くか、どんな家庭を作るか、確かな相手もいないのに、わずかな希望の光を強い期待の元に根限り増幅させる。あまりにテンション高くディスカッションし過ぎて、後続の老夫婦が苦笑いしているのを見逃さなかった。

 剣岳を目指す当日。この日に限っては皆口数が少なく、緊張しているようだった。それもそうだ、弘法大師が草鞋千足を費やしても登れなかったといわれるほど険しい山なのだから。ピークまでの道中、確かに滑るとまっ逆さまな箇所が多く何度と無く肝を冷やしたが、整備がしっかりされていること、天気が良いこともあり何とか剣岳三角点に到着できた。三等三角点に。100年前、前人未踏だったこの山に初めて登った柴崎芳太郎と同じ景色を見ているんだなぁ、と思うと感慨深く強い風もどこか心地よく感じられた。

 この夏合宿につき、プレへの参戦やTシャツの枚数を多くするために嫌々買って下さった皆様、中川さん(41期)、熊野さん(42期)、村上(43期)、佐藤(44期)、平田・長井・雨宮(45期)、阿部(46期)、渋谷(47期)に感謝致します。ありがとうございました。来年の夏は・・・穂高かな。


平成20年OB会報NO39より抜粋