垂直の大岩壁を登る (クライミング@ドロミテ)
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉・良子

 「すご〜い」・・・ドロミテのほぼ中心に位置する小さな村、セルバ・ガルディナに降り立った時の第一声である。村のすぐ背後には垂直の岩壁が屏風のように聳えており、雨模様だったこともあり、近寄りがたいまでの迫力であった。この後も、毎日この言葉を連発することになった。

 ドロミテとは、長野県に匹敵する広い山域に広がる山の総称であり、垂直の大岩壁や岩塔など石灰岩特有の山容が、「世界で最も美しい山」と言われている。ドロミテ観光の中心地「コルチナ・ダンペツォ」は、1956年の冬季オリンピックの回転競技で、猪谷千春がトニー・ザイラーに次いで銀メダルを取ったところであり、日本にとって思い出深いところである。ドロミテの魅力の一つが、多くの峠が森林限界の上になり、草原と岩壁の美しいハーモニーとなっていることであろう。そして、そんな峠を越えていくと、魅力溢れる小さな村に出会う。セルバはそんな村の中でも特にきれいな村であり、山小屋風のホテルはもちろん、一般の家もみんな新築のようにきれいであった。

 初日は、セラ山群のNo.1&No.2タワーと呼ばれる岩塔(15ピッチ)を登った。セルバから峠まで車で30分、そこから草原を20分ほど歩くと、もう取付きである。初めてのドロミテの岩場を目の前にし、心地よい緊張感が湧いてきた。初日ということもあって比較的簡単なルートとはいえ、垂直の壁が続く岩塔のクライミングは、開放感と高度感があり、気持ちがよかった。

 二日目は、名峰サッソルンゴのファイブフィンガーズ(13ピッチ)という岩峰に登った。ここは、峠からゴンドラに乗り、降りたところがもう取付きである。垂直の壁の登攀とトラバースを繰り返しながら登った頂上からの眺めは素晴らしいものであった。

 三日目は、セラ山群の山肌に食い込むルンゼの垂直の壁(8ピッチ)のである。前半は急なルンゼを詰めていくだけであり、特に難しいところはなかったが、後半は一転して、垂直の壁(写真)が続いた。石灰岩特有のゴツゴツした岩肌のため、見た目ほどは難しくはないものの、緊張の連続であった。

 四日目は、コルチナに近いモンテ・ラガツォイという山の大きな西壁(16ピッチ)を登った。道路脇に車を置いて壁を見上げた時、あまりの迫力に圧倒されてしまった。ガレ場を15分ほど登ったところから取付いた。いきなり垂直の壁である。大きな下部岩壁を13ピッチで登ると暖傾斜帯となり、そこを15分ほど歩いて登り、上部岩壁を3ピッチで登ると、十字架の立っている頂上の脇に飛び出した。ゴンドラが通じているので、頂上は多くのハイカーで賑わっていた。頂上からは、トファーナ山群の圧倒的な岩壁が目の前に広がっていた。

 五日目は、モンテ・ラガツォイのファルツァレンゴ・トリという岩塔(9ピッチ)を登った。コルチナに近いためか、これまでと違って数パーティが入っていたので、急遽ルートを変えて、空いているルートを登った。登り切ったところで急に雨が降ってきたので、急いで懸垂下降し、岩陰で雨宿りしてから、濡れたルンゼを歩いて下った。

 一昨年のオーストラリア、昨年のシャモニーに続いて、今年のドロミテも天候に恵まれた5日間であった。そして、うわさに違わぬ美しい山であった。

真中がファイブフィンガーズ
        セラ山群の垂直の岩壁
平成20年OB会報NO39より抜粋