ジャンダルムを縦走して
10期(昭和46年卒) 田中 康則
 最近よく登山をするようになった。北アルプスが中心だが、丹沢、奥多摩、高尾山などにも頻繁に行っている。北アルプスの経験で言えば、白馬を除いて全て松本から上高地が出発地である。4年前は槍ヶ岳から雲の平へ、更に竹村新道から湯俣温泉へ。3年前は白馬尻から大雪渓を登り白馬へ、鑓温泉から下山。昨年は涸沢ヒュッテから北穂高へ、大キレットを通り南岳小屋へ、天狗が原から上高地に下山。秋に再び涸沢ヒュッテへ。そして本年はジャンダルム縦走に挑戦した。

 奥穂高岳からジャンダルム、天狗岳、間ノ岳、西穂高岳と縦走するコースには、ガラ場、ナイフリッジ、逆層スラブ、そしてクライミングチックな箇所が数知れず存在する。そんなコースだが、ヘルメット、ロープ、ハーネスなどロッククライミング用装備無しでも縦走できる。もちろん、これらを持った完全装備の人も多い。ここは一般縦走コースとしては北アルプスだけでなく、日本で一番厳しいコースなのです。ある本には「技術、判断力、総合的体力、経験など全てに優れ出た人が、天候に恵まれた時のみ成功する」とまで書かれている。実際経験してみて本当に厳しいコースであった。

 8月11日、午後1時新宿発の特急あずさで松本へ。電車、バスを利用し上高地へ。1日目は西糸屋山荘に宿泊。ビールを飲みながら夕食。ゆっくり温泉に入り、早めに寝ることにした。

 8月12日、天気はまずまず。涸沢ヒュッテに向かう。ここでラーメンを食べ、いよいよ穂高岳山荘へ。ザイテングラードなど急な斜面を抜けると程なく山荘が現れる。この日もビールを飲みながら夕食を食べ、雑誌などを読み就寝。

 8月13日、この日は雨。停滞日とした。雑誌やビデオを見ながら過ごす。北アルプス大縦走を撮影中のNHKのスタッフも同日停滞日。田部井淳子さんは周囲の人とお話をしていた。夜の天気予報で明日は快晴と報じられ、歓声がもれる。いよいよ明日と思い就寝。

 8月14日、朝食も食べず、午前5時に出発。外は風が強く寒いのでヤッケを着て奥穂高岳へ。山頂でヤッケを脱ぐ。すでにジャンダルムに向かっている人も何人かいる。緊張感をもって馬の背に取り付く。鎖は無く信州側、飛騨川ともに鋭く落ち込んでいる。最初は下りになるが、厳しい下りの為、後ろ向き三点確保で下りる。手でつかむ岩、足場となる岩が見つからないと滑落もあるので厳しい。この最大のナイフリッジを下り終わるとロバの耳だ。難所中の難所であるが、鎖があったので少しほっとした。

 やがてジャンダルムの下にでた。信州側を、鎖もない急な壁を両手で岩をつかみ、慎重に足場を確保しながら、ジャンダルムを巻きながら登って南側に出た。はらはらどきどきの滑落の危険性の高いルートだった。

 ジャンダルムを過ぎてから急な岩稜帯を約1時間近く下ると天狗のコルである。コルからは一転して登りの連像であった。岩稜の山は登りの方が、手でつかむ岩や足場となる岩が確認し易く、下りより楽である。両手、両足を使って高度を上げるとやがて天狗の頭をすぎ、天狗岳の頂上に着いた。ここは360度のパノラマが広がり、目指す西穂高岳の山頂には多くの人達をはっきりと確認できた。

 天狗岳の頂上からは逆層スラブの下りであった。幸い鎖があったので、鎖に頼って下った。下り終わると間天のコルである。ここから間ノ岳の登りになりますが結構浮石が多く注意が必要であった。最後の急な登りは鎖があったので鎖を利用して登った。間ノ岳の下りはガラ場であった。下りきると最後の山場である西穂高岳に向かった。長い鎖場を通って、ハイマツがせりあがった穏やかな道を進み西穂高岳の頂上にでた。これで今回の縦走の難所は終わりかと思ったが、独標まではアップダウンのある厳しい岩場だった。独標を過ぎるとやっとダラダラした下りになった。既に夕食も始まっている頃に西穂山荘に到着。厳しい一日だったと振り返った。

 8月15日、一番遅い午前6時の朝食を食べ、出発。西穂高口に下り、ロープウェイを乗り継ぎ新穂高温泉へ。タクシーで沢渡に出て、温泉に入り一人ビールで乾杯。バスと電車を乗り継ぎ新宿へ。9月の連休には厳しかった夏の思い出を探りに西穂高岳に行ってみようと思いながら帰途に着いた。

 9月の連休は都合で行けませんでしたが、10月10、11、12の連休には上高地からの往復として西穂高岳へ行ってきました。既に初冠雪もしており厳しいイメージもありましたが、紅葉の時期と重なっていた為か、西穂山荘も独標も超満員で、西穂高岳も多くの人で賑わっていた。縦走してきた、間ノ岳、天狗岳、ジャンダルム、奥穂高岳がはっきりと見え、厳しかった夏が思い出された。

 限界の登山からは多くの教訓を得た。

    @ フリークライミング位練習しておいた方が良い。
    A 荷物は出来るだけ軽くする。
    B 水場が無いので、水は多めに持つ。
    C 朝食を食べずに出ることが多いが、弁当は早めに食べる。
    D 岩稜の山ではストックは必要ないので、ストックを持たない登山をする。
    E 縦走は体力が必要なので、トレーニングはきっちりとやる。
    F 大キレットや西穂高岳往復などで岩稜の山に慣れておく。
平成21年OB会報NO40より抜粋