谷川岳幽ノ沢・中央壁左方ルンゼ登攀
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉

 すっかり色づいた紅葉の中、連日の晴天ですっかり乾き切った幽ノ沢のカールボーデンをゆっくり中央壁に向かって登っていった。カールボーデンは、大昔、氷河に削られた暖傾斜の広いスラブ状の岩場であり、気持ちのいいところであり、幽ノ沢の魅力の一つである。

 紅葉で賑わう一の倉沢とは異なり、今日も幽ノ沢にはわれわれの他には3パーティしか入っておらず、まったく静かである。周りの雄大な岩壁の景観を楽しみながら、カールボーデンをT1と呼ばれるテラスまで登る。徐々に傾斜が増してくるので、適当なところでロープを出し、アンザイレンした。ここは広いスラブなので、どこでも好きなところを登ることができる。


 T1から中央壁の基部を1ピッチと少しトラバース気味に左上すると、今日の目的である左方ルンゼの入り口となる。いつも濡れていて滑る左方ルンゼも、このところの晴天続きで、すっかり乾いており、快適なクライミングを予感させた。

 ルンゼに入ってすぐ核心部である。ビレイ点から見上げると、傾斜のきつい、ツルツルのフェースが15mほど続き、その上にハングが覆いかぶさっている。逆層気味なので、濡れていると手強そうであるが、幸い今日は岩が乾いているので登りやすい。最初のうちは左寄りに登ると、水平フレーク状のツルツルの岩がある。フレークに古いハーケンが1本あるが、フレークの上もホールドが乏しいので、ハーケンを1本打ち足した。フレークの上にもう1枚、少し小さめのフレークがあるが、こっちは完全に浮いており、剥がれそうである。早めに右側に寄り、リッジ状に乗り移った。スタンスが外傾気味であり、おまけに草が多いので、濡れている時はあまり登りたくないところである。記録ではアブミを使っているものが多いが、完全フリーで登った。

 その次のピッチもホールドの細かい、滑りやすいスラブで、核心部の続きという感じであった。ハーケンはあまりないので、支点から左上したところで取りあえず1本打った。そこから、途中ハーケンをもう1本打って直上した。

 途中で終わりとして懸垂下降で下るか、上に抜けるか決めていなかったが、面白そうな岩場が続いたので、結局コルまで抜けた。カールボーデンの途中から、トータル10ピッチの長い登攀であった。一の倉沢の多くのルートはよく登られているのでハーケンがよく打たれており、ルートも分かりやすいが、幽ノ沢はハーケンが少なく、自分でルートを決め、ハーケンを打ちながらの登攀が続くので、総合的に難しくなり、アルパインクライミングの原点のような面白味がある。


 コルからは、潅木と熊笹の斜面を中央壁の頭まで登り、さらに熊笹の中の踏み跡を辿ると堅炭尾根の登山道に出た。土合からのアプローチに2時間20分、コルまでの登攀に5時間20分、コルから土合まで4時間20分、トータル12時間のハードなクライミングであった(10月24日)。

平成21年OB会報NO40より抜粋