ナマステ・ハネムーン
43期(平成16年卒) 金谷 健史
 私ごとで恐縮ですが、この春結婚いたしました。となると、当然新婚旅行に行かなければなりません。社会人となった今、大きな顔で長期の休みを取れるのはこのチャンスを置いて他にないからです。せっかくの長期ですから普段行けない所に行こうと決めました。アマゾン川でバタフライ、南極でペンギンと相撲、など色々と考えてみたものの、既に旅行ではなく冒険に変わっていると諭され、生きて帰って来られる事、それでも達成感が得られる事、という私の希望を兼ね備えたネパール・ヒマラヤトレッキングに行くことにしました。

 出発は10月。ちょうどネパールが乾季に入り天候が安定している時期です。行き先はネパールの首都カトマンドゥからほど近いランタンヒマラヤ。『世界で最も美しい谷のひとつ』と評される山群です。

 韓国インチョン空港を経てカトマンドゥに。そこから街を越えて山腹をバスで10時間。もちろん舗装はされていません。縦揺れ横揺れ斜め揺れ、断崖の斜面を遊園地のアトラクション以上のスリルと、明らかに過剰な乗客を乗せてバスは走ります。道中、日本人が初登頂したマナスルを感慨深く眺めながら、谷底に落ちているバスを意味深く眺めながら、いつの間にかスリル満点バスで熟睡している家内を茫然と眺めながら。登山口となるシャブルベンシに着いてからは本格的に山に入ります。

 氷河により削られた深い谷を遡ると、徐々に薄暗かった樹林が開け、頂上が雪で覆われた神々しい山々が見え始めてきました。ランタンU峰、ランタンリルン、キムシュン、ガンジャラチュリ。中でも一番格好良かったのは、千丈ヶ岳の様な雄大なカールを持ちながら槍ヶ岳の様に急峻なピークを示すガンチェンポ。赤い夕陽の中でそのカールに刻まれた“ヒマラヤ襞(ひだ)”は深く険しい影を作り、遠くにあっても存在感を放っていました。

 その後も、白いヒマラヤの山々が一望できるラウルビナヤク、青空が映えるヒンズー教の聖なる湖ゴサインクンド、数え切れない緑の棚田が斜面を埋め尽くすヘランブー、随所に見られる祭事の黄色い花マリーゴールド、と、まさに五色の祈祷旗タルチョのようにネパールの自然は鮮やかな色で始終我々を楽しませてくれました。

           

 私にとって初めての海外旅行。写真でしか見たことのなかったヒマラヤの風景が目の前に広がっていると、もう勝手に身近な存在に感じてしまい、次はエクスペディションで、という夢すら見るほどでした。トレッキング中の絶景もさることながら、無秩序で雑多ながら活気に満ちたカトマンドゥの街、そして、そこで懸命に生活する人たち、シェルパやポーター、村人や純粋な目をした子供たちとの交流はとても衝撃的で、如何に日本にいた自分が生きていくことに無頓着であったかを感じさせられる良い経験となりました。

 3週間も仕事を休み、大満足の帰国後、自然への賛歌と魔除けのために我が家にも祈祷旗タルチョを導入しようとしましたが、家内にも職場にも白旗しか掲げられませんでした。

         
平成22年OB会報NO41より抜粋