地底の世界
4期 (昭和40年卒)大東磐司こと小原佑一
 毎年、その立派な姿を遠くから見ているだけだったが、ついにこの夏、山頂の小屋にいる三日月君に会ってみたいと何十年ぶりで蓼科山に登った。

 はじめて蓼科に登ったのは小学生の時、その時は時間切れで途中から引き返し、その次はワンゲル現役時代、南アルプスの合宿終了後、蓼科を出発点として八ヶ岳を縦走、清里に下りて信州峠を抜けて金峰から秩父を縦走し、雲取から当時の氷川駅(今の奥多摩)まで・・・

 昔を思い出しながら蓼科の山頂へ、岩だらけでグランドのように広くて平らな山頂の片隅で風雨にさらされた御幣の付いた荒縄を見つけた。何となく意味ありげで神秘的な空間。

 三日月君に聞くと、ここには古くからの言い伝えがあって、ここの穴は浅間山の麓の池につながっていて、お姫様の話があるとか・・・・

 帰って調べてみると、諏訪地方に伝わる諏訪明神の「本地」を語る「地底の国/遊井万国」の入口であることが判った。

 話は近江の国、甲賀の地頭、甲賀三郎の妻、春日姫が伊吹山の天狗にさらわれ、甲賀三郎は諸国を探しまわって、この蓼科山山頂の穴にたどり着いた。穴の底で春日姫を見つけ救出するが兄に春日姫を奪われ、三郎は穴の中に取り残される。穴の底には地上と全く同じように農耕や狩猟が行われている地底の世界、遊井万国があった。三郎はこの地底の国を遍歴し、地底の国の女性と結婚して9年余地底で生活。やはり地上が恋しくなって出てきたところが浅間山の山麓の池、西大沼。なんと地上では300年近く経っていた。三郎は一時大蛇に変身したりして諏訪湖の畔にたどり着く。三郎は諏訪明神の上社、春日姫は下社に祀れ、冬になると三郎が諏訪湖を渡って下社から下社に向かう。その時、諏訪湖の御御渡りが出来るとか・・・

 この甲賀三郎の話の他、諏訪湖、蓼科、八ヶ岳界隈にはいろいろと歴史に関わる話題があるよう。いつも気にせず通過している麦草峠や奥蓼科の渋の湯付近には旧石器時代、黒曜石を採取した遺跡があるとか、また蓼科高原では薪を燃やして鉄を取り出す産鉄が行われていた。

 耕作放棄された荒れ地を鍬で耕した後、鉄鉱山跡の露天風呂で汗を流し、星空の下、ビールをのみ、酔いつぶれて寝てしまう。こんないい加減でぐうたらな庵の生活もいいものです。
平成22年OB会報NO41より抜粋