3000m 雲上のクライミング 北穂高岳・滝谷ドーム
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉


 3000mの高みでのロッククライミングは実に気持ちがいい。天気に恵まれれば、雲海を見下ろしながら岩壁を登ることができる。今年の夏、クライミング仲間二人と北穂高岳・滝谷ドームを登った。三度目の滝谷ドームであり、今回はビデオ撮影をしながらのクライミングである。メンバーの一人は日本のクラシックルートのビデオを作ることをライフワークとしており、私とはこれまでに、谷川岳・一の倉沢4ルート、幽ノ沢1ルート、錫杖岳2ルート、黒部丸山東壁2ルート、八ヶ岳・大同心1ルート、端牆山1ルート、計11 ルートのビデオを作っており 、今回は滝谷ドーム3ルートの撮影をする計画であった。

 毎度のことであるが、重い登攀具を担いで一気に北穂高岳に登るのは本当に辛い。北穂南稜の登りでは足が痙攣しそうになった。北穂小屋にたどり着いた勢いでビールとワインでの乾杯にちょっと付き合ったのが大きな間違いで、夕食の時に気分が悪くなり、北穂小屋自慢のポークソテーを食い損ねてしまった。

 初日は、天気が微妙であったが、中央稜( 5ピッチ) を登った。滝谷はどこも岩が脆く、滝谷ドームも西壁は大きく崩れてルートが消失してしまった。また、多くのルートは取付きまでガリーを下って行かなければならないが、落石が多く、とても下る気になれない。中央稜は比較的岩も硬く、アプローチも安全( と言っても岩場をクライムダウンしなければならないが) であり、登る人も比較的多い。

 当日の朝は雨こそ降っていないが、ガスがかかった中で登攀を開始した。晴れた時のような高度感はないが、ガスの中の岩壁は独特の雰囲気を持っている。これもまた3000mでのクライミングである。4ピッチ目を登る段になってとうとう雨が降ってきてしまった。あと2ピッチ、濡れて滑る岩に注意しながらドームの頭に抜けた時には雨も止んでいた。


 二日目の朝は、槍、穂高は雲海の上に頭を出し、見事なご来光を堪能することができた。今日は右の写真の滝谷ドーム北壁の2ルートを登ることにした。この写真は北穂頂上から撮ったものであり、北壁の顕著な2本のクラックが丁度正面に見える。左ルートは2本のクラックの間のフェースを人工登攀で登るものであり、右ルートは右側のクラックをフリー主体で登るものである。いずれも2〜3ピッチと短いルートであるが、3000 m の稜線でのクライミングは何ものにも代え難いものがある。上高地から一気に登ってきた苦労が報われる瞬間でもあった。


 二日間の充実したクライミングを終え、四日目にのんびり下山した。涸沢からは横尾経由ではなく、パノラマコースを徳沢へ下った。すれ違った登山者は二人だけであり、混雑する北アルプスの中で静かな山旅を味わうことができた。


日本のクラシックルートのビデオサイト : http://www.originalcv.com/climbing/
平成23年OB会報NO42より抜粋