日本の大岩壁を登る 唐幕・畑山ルート
8期(昭和44年卒) 佐藤 拓哉

  北アルプスの唐沢岳・幕岩(通称「唐幕」)と言ってもどこにあるか知っている人は少ないであろう。表銀座として人気のある燕岳の北に、訪れる人が少ない餓鬼岳(1年生の夏合宿で初めて登った北アの山頂)があるが、唐沢岳は更に北にあり、登山道すらない。そんな山でも、日本のアルパインクライマーの憧れの大岩壁がある。この岩壁は、谷川岳、穂高岳、剱岳などの岩場を経験したエキスパートのための岩場と位置付けられている。


  10月の中旬、紅葉が綺麗な時期に唐幕を訪れた。これまで唐幕で他のパーティーと一緒になったことがなかったが、今回もこの大岩壁にパートナーと二人きりであった。大岩壁の登攀は痺れる程エキサイティングであるが、大岩壁の基部にある岩小屋(大町の宿)で、焚き火を囲みながら過ごす静かな夜は、他の岩場にはない魅力である。

七倉から先は車両が規制されており、高瀬ダムの下まではタクシーで入った。そこから沢を2、3時間遡ると、大町の宿となる。ここには冬でも凍らない湧き水もある。星空が明日の晴天を約束してくれていた。


  明け方は寒いので、いつもより遅めに出発した。それでも北向きの岩壁には陽が当たらず、寒い。染み出しで岩が濡れていると思ったら、ベルグラ状態となっている。寒いはずである。

岩を掴んでいると、あっという間に手の感覚がなくなってくる。手を暖めながらの登攀は時間がかかるが、どうしようもない。

2ピッチ目がルートの核心部である。右の写真のように、ハングを越えて左側の垂直のフェースに出て直登し、さらに小さなハングを人工登攀で越えていく豪快なピッチである。


  その後は、草付き状態のルンゼ状やブッシュの多いフェースなどを登る、いかにも日本的な岩壁の登攀が続いた。すぐ隣には、乾いた気持ちの良さそうなフェースがあるにも拘わらず、である。

そのまま登り続けると上の方でビバークとなるので完登を諦め、途中から懸垂下降した。登攀時の2ピッチ目は、ほぼ50mの空中懸垂となっていた。

平成26年OB会報NO45より抜粋