唐沢岳と甲斐駒ケ岳、八ヶ岳のクラシックルート登攀
8期 (昭和44年卒) 佐藤 拓哉

 【 唐沢岳・幕岩・大凹角ルート 】

 唐沢岳・幕岩、通称「唐幕」は高瀬ダムのすぐ下流で合流する沢の奥に聳える日本有数の大岩壁である。今では訪れるクライマーも少なく、沢沿いの踏み跡もところどころ消えてしまっている。そんな岩壁が好きで、今年9月の連休に訪れた。6度目にして初めて、「大町の宿」(大きく快適な岩小屋)で他のパーティと会った。

 ルートは岩壁の右端近くを登るものであり、唐幕のルートの中では最も登られている。壁の下2/3は雪崩に磨かれたスラブが中心であるが、最後はその名が示すように、岩壁に深く切れ込んだルンゼ状となっており、いつも濡れていて滑りやすい。岩壁といいながら、草が多いのも日本的な岩壁である。

 今回は鈴鹿から来たご夫妻と会社の後輩との4人パーティである。このご夫妻とは3年半前に、八ヶ岳小同心クラックで偶然一緒になり、それ以来よきザイルパートナーとして、あちこちの岩壁を一緒に登っている。

 9月下旬ともなると、北アルプスはかなり冷え込む。上は青空が広がっているにもかかわらず、北面の岩壁には一日中日が当たらない。日が当たっている後立山連峰の稜線がいかにも暖かそうに見える。朝早く取り付いたため、出だしは岩が冷たく、指先の感覚がなくなってくる。その度に手を温めながら慎重に登った。昼過ぎに岩壁を登り切り、上のテラスでようやく昼食を口にした時、充実感がジワーッと湧いてきた。

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 【 甲斐駒ケ岳・赤石沢奥壁Aフランケ・赤蜘蛛ルート 】

 甲斐駒の赤石沢奥壁は日本で一番美しい岩壁であり、長い間の憧れの的であった。しかし、アプローチの厳しさも天下一品である。7合目の岩小屋まで、黒戸尾根を登っても、北沢峠から甲斐駒を越えて行っても、相当のアルバイトである。さらに1時間半ほど急斜面を下ってようやく取付きに着くのである。ほとんど諦めかけていたが、4年前の夏に最初にして最後と思って挑戦してから、今年の夏に4回目の挑戦をしてしまった。北沢峠から入ったが、登攀用具一式と三日分の食料、シュラフなどの重さに喘いだ。

 赤蜘蛛ルートは何度登っても厳しく、素晴らしいルートであった。日本の岩壁としては珍しく草が少なく、花崗岩の白さと水が流れた跡の黒が見事なコンストラクトを見せている。

 ルートはいきなり垂直の壁の人工登攀から始まり、フリーと人工のミックスで高度を上げていく。ハイライトは6ピッチ目の大きな垂直の壁の人工登攀(写真)である。下を見ると、取付きがほぼ真下に見え、凄まじい高度感である。さらに4ピッチ登って登攀を終了し、そこから1時間弱、重い荷物を担いで岩小屋に戻った時には、まさに疲労困憊状態であった。

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 【 八ヶ岳・横岳・小同心クラック 】

 かつてのよきザイルパートナーであったオギャー(うちの奥さん)とは、故あって年1,2回程、ドロミテ(イタリヤ)やスペインの岩場などを登る程度となった。今年は海外には行かず、国内の岩壁を登ることにした。

 小同心クラックは3ピッチの短い入門ルートであるが、小同心の頭から簡単な岩場を横岳頂上まで抜ける気持ちのいいルートである。

 赤岳鉱泉に一泊し、翌朝登ることにした。急な大同心稜の樹林帯を抜けると、大同心の岩壁が頭上に迫ってくる。その基部をトラバースし、大同心ルンゼを横切って少し登ると、テラスとなっている小同心クラックの取付きである。クラックと言っても、遠くから見るとクラックのように見えるだけであり、実際は広いチムニーか凹角という感じである。

 午前中は日が当たらないので、風があると寒い。石をセメントで固めたような感じの岩場を登り切り、小同心の頭に出るとようやく日が当たり、ホッとした。横岳の頂上は目と鼻の先であり、大勢の登山者がこっちを見ていた。最後のひと登りで横岳の頂上に着いた。帰りは大同心ルンゼの源頭を下り、大同心稜を経て赤岳鉱泉に戻った。

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平成27年OB会報NO46より抜粋