北アの大洞穴ハングを登る
8期 (昭和44年卒) 佐藤 拓哉

 北アルプスの唐沢岳幕岩(唐幕)にある大洞穴ハングは、黒部の丸山東壁の大ハングとともに、日本を代表する大ハングである。今ではほとんど訪れるクライマーのいない大岩壁の基部に、圧倒的な迫力で口をあけている。

 今年の秋は週末の度に台風が日本列島を襲い、雨の週末が続いた。10月初めの連休にクライミング仲間4人で唐幕を訪れた時も、雨の中、「大町の宿」と呼ばれている大きな岩小屋まで沢を詰めることになった。天気予報より天気の回復が遅く、夜半まで雨が降り続いたため、翌日は快晴になったものの、岩壁はびしょ濡れで登れる状態ではなかった。急遽、予定を変えて大洞穴ハングを人工登攀することにした。

 大洞穴ハングには何本か登攀ルートがあるとはいえ、アプローチには踏み跡がまったくなく、急な斜面のブッシュ帯を、岩角や木を掴みながら1時間半ほど登らなければならない。岩壁の基部はスラブ帯となっており、近づくだけでもV級程度のクライミングが強いられる。大洞穴を下から見上げると、まるでモスクの天井を見上げているような感じである。垂直の壁(90゜)で始まり、登るにつれてドーム状に傾斜が変わり、完璧なルーフ(180゜)となった後に先端ではやや垂れ下がっている(約200゜)。

 この圧倒的な大ハングに、まずは鈴鹿から来た女性クライマーがリードで挑んだ。垂直の壁は、ハーケンに掛けたアブミ(縄梯子のようなもの)に乗って足を巻き込んで身体を上げ、次のハーケンに向かう。単調なアブミの架け替えも、前傾壁になるにつれて難しくなってくる。傾斜が増してルーフに近くなってくると、ぶら下がったアブミに乗りながら架け替えて少しずつ前に進むことになる。足の下には谷底まで落ちていく数百メートルの空間があるだけであり、物凄い高度感に緊張が走る。最初の女性クライマーが半分ほど登ったところでいったん降り、次のクライマーに交代して更に前進した。交代しながら前進し、ようやく大洞穴ハングの先端に到達した。時間がかかったが、交代でリードで先端まで登ることができた。

 本来はここは幕岩の大岩壁の正面をまっすぐ登る「京都ルート」の1ピッチ目である。今回は人工登攀が初めての人もいたのでハングの人工登攀の練習だけにしたが、そのうち完登を目指して挑戦してみたいものである。続くピッチも垂直の壁とハングの連続であり、壁の途中でビバークすることも多いルートであり、古希を過ぎた身には厳しいルートである。

唐沢岳幕岩(唐幕) 大洞穴
大洞穴ハングの中央を人工登攀 ・・・ 高度感が凄い!
交代しながら登攀を繰り返す
平成29年OB会報NO48より抜粋