旧連からみた地図読みのスタンダード
( 記念式典講演 )
27期 (昭和63年卒) 平塚 晶人

 30歳から45歳までの15年間,フリーランスとしてライター業に勤しんできました。この間,著作を10冊ほど世に出しましたが,そのうちの3冊は,山を歩く際の地形図の読み方に関するもので,そのベースはTUWVで培った地図読みの技術です。したがって,私は,TUWVに大恩があるわけで,これまでOB会に参加してこなかったことに,一抹の後ろめたさを感じてきました。

 2年前,溜池山王の交差点で,1期先輩で26期の長谷川さんに邂逅したことから,先輩や同期と幾分のつながりが復活し,新橋での新年会にも出席するようになり,このたび60周年記念行事で,栄えある講演をさせていただくことになった次第です。

 講演でも触れましたが,地図読みの技術は,GPSの発達により不要になったかのごとき風潮があります。しかし,そのようなことはまったくありません。われわれがTUWVで学んだ地図読みは,ある地点に到着して,それから地図を開いて,現在地はどこかと考えるようなものではありませんでした。先読みを効かせているために,現在地は常に分かっているのであって,それよりも重要なのは,予想した行程を基に山中での行動を律することでした。それがTUWVの地図読みでした。そのような機能は,GPSにはなく,人間の頭で考える必要があります。したがって,地図読みの意義や楽しさは,GPS全盛の今も,いささかも色褪せていない,と私は感じています。

 さて,60周年記念行事ですが,やはり,肩を組んで,学生歌や部歌を叫ぶのはよいものです。久しぶりに会った1期下の後輩(28期)たちも,岩村の生え際が著しく後退していたり,樺元の柔髪が純白化していたりと,目を見張る変化に驚きはしましたが,10分も話せば時は一気に30年遡り,部室の匂いとバカ騒ぎが,憂いも恐れもなかったあの頃の精神とともに蘇りました。また,学生時代は面識のなかった鈴木ハツヨ先生とじっくりとお話しをすることができ,その気持ちの若々しさと思いやりの心に大いなる刺激を受けたことは,記念行事に参加した最大の収穫でした。

 私は,46歳のときに早稲田大学の法科大学院に入学し,司法試験をどうにかクリアして,現在,弁護士となって4年目です。山は,社会人になってすぐに入会した東京の山岳会にそのまま所属して,年に数回という頻度ですが,沢に入って地図を読んでいます。TUWVとのつながりと地図読みの愉しみは,生涯続くことを,実感した60周年記念行事でした。

講演する平塚晶人氏
平成30年OB会報NO49より抜粋