ただひとつ --- 日本の岩壁、日本の氷瀑、世界の岩壁
8期 (昭和44年卒) 佐藤 拓哉
 クライミングを始めてからこの3月でちょうど20年になる。最初の10年はほとんど夫婦二人でのクライミングであり、今でもベストのザイルパートナーであった。心臓病が悪化して家内が登れなくなった後半の10年も何人かのパートナーに恵まれ、最近は20代から60代までの十数人のメンバーに教えながら登っている。
 二人で登った数多くの岩壁や氷瀑から「ただひとつ」を選んで振り返ってみたい。

 日本の岩壁の「ただひとつ」は黒部の巨人「丸山東壁」である。
内蔵助平沢に面したこの大岩壁は訪れる人もほとんどいなく、アプローチや取付きも判然としない。そんな岩壁に二人だけで挑戦した。目指すルートは、左岩稜ルートと岩壁の真ん中をひたすら人工登攀する緑ルートの2本である。左岩稜の取付きはブッシュ帯の中であり、見つけるのが難しい。対面の斜面に登って見当をつけてから、急な草付きをトラバースして取り付いた。クライミングもさることながら、一発で取付きを見つけたことが忘れられない。

  丸山東壁
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 日本の氷瀑の「ただひとつ」は八ヶ岳の「大同心大滝」である。
八ヶ岳を代表する名瀑であり、アイスクライミングを始めて2シーズン目の目標に定めていた。正月休みに赤岳鉱泉をベースにアイスクライミングの特訓をした後、裏同心ルンゼを詰めることにした。しかし、この年は雪が深く、小さな滝の連続の裏同心ルンゼは雪に埋もれていた。仕方なく予定を変更し、大同心大滝を見に行くことにした。

 深い雪をラッセルしながらたどり着いた大同心大滝は目を見張るほどの迫力であった。裏同心ルンゼの予定であったのでスクリューは3本しか持ってこなかったのが悔やまれた。しかし、不思議と登れるような気がしてしまい、吸い込まれるように登り始めた。無事に完登できたからよかったものの、その後はとてもスクリュー3本では登れる気がしなかった。

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 海外では、オーストラリア・ブルーマウンテン、フランス・シャモニー、イタリア・ドロミテ、スペイン・エルチョロなど登ったが、「ただひとつ」は、エギュー・ド・ミディ南壁のレビュファルートである。伝説のクライマーであるガストン・レビュファが開いたルートであり、写真のスベリ台のような綺麗なフェースのクラックを拾いながら左上していく素晴らしいルートである。うっすらと赤みがかった岩でとても美しい。

令和元年OB会報NO50より抜粋