懐かしの表磐司と二口小屋
50年前にタイムスリップ
9期 (昭和45年卒) 熊谷 久

 10月の好天の下、かねて見たかった姉滝のカラマツの紅葉を見に二口を訪ねた。平日ながら秋保大滝前の駐車場は混んでいた。確か馬場あたりで「二口林道開通 令和元年○月」の掲示を見かけた。

 確か前回はチェルノブイリ事故発生時、二口小屋に泊まり突然のニュースに世の終わり自覚したことを覚えている。あの時も二口峠まで林道は通じていたが、以後雪崩や土砂崩れで傷んだ林道を部分補修しながら安全が確保され再開されたものと察した。

 本小屋バス停にはビジターセンターができ、磐司山荘は跡形もないが右手の昔からの一軒家は健在である。自転車を漕いで本小屋に着きこのお宅に自転車を預かって貰った。あの時は大東に登り夕日と駆けっこして樋ノ沢に下り、テン場では枯葉を集め相原さんのブレザーで眠った。

 大東、大行沢分岐を過ぎて姉滝あたりまでは白線はないが車幅は広く快適。目的の姉滝で道路右手のカラマツは綺麗に紅葉していた。よく表磐司を歩いた時にこのカラマツを目印にし、また雨のときには慰められた。

 磐司小屋跡前は少し広くなっている。一年の秋に磐司尾根を登るフリーを企画したことがある。夜来雷光があり翌日は磐司岩上部辺りから小雪となった。小笠原リーダーの掛け声の下、雪を被った枝をかき分けて登りピーク手前の尾根の分岐に出て一安心した。

 右岸に渡り少し高度を稼ぐと車幅を広げてあり右後方に表磐司が楽しめる。やや進むと対岸に白糸の滝を見える所にゲートが設置してある。白糸の滝には苦い思い出が、一年の梅雨時期のフリーに行くことにしたが、夜中の大雨が気になり短波の気象通報を取り寝坊してしまい前田、水上両先輩に迷惑をかけてしまった。

 コンクリート橋を左岸に渡り、小刻みに急カーブを登るとカラマツで視界が開け、少し上の左手に二口番所跡の駐車スペースがある。峠を目指し緩やかに高度を稼ぐ。途中仙台神室、日陰磐司そして表磐司を望める展望場所が設けられている。

 この景観は雪のある時期でなければ行けない斜面からの眺めで、あの頃に紅葉を眺めるなど不可能に近かったものである。斜面を切り開かれた道路のお陰で枝葉に遮られることなく出現した。

磐司小屋を過ぎ右岸に登ってから、展望場所での表磐司岩
峠手前の展望所からの仙台神室
同じところから東方を望み表磐司、日陰磐司

 30年前と違い、舗装されガードレールと法面保護のコンクリートで守られ安心して運転し、車を止めて景色を楽しむことが可能となった。林道建設には反発していたが、歩行不自由な老人でもこの眺望を楽しめることは感慨深いものがある。

 大きくターンして昔の道の樹林帯の脇を走り抜けると二口峠広場に出る。我々は龍ケ峰と呼んでいたピークを今は糸岳と言っているが、五段構えの登りは一次新錬での最大の泣き所であった。私は県境稜線から山寺に下るコースの中で二口峠からが一番好きである。途中水の流れる火山岩を下るのが涼しげでまた安心して歩けた。残念ながら現在は荒れて通行不可とのこと。

 峠でのんびりしていると、山寺側から上ってくる山形ナンバーの多さに驚く。この林道のお陰で山寺と秋保、作並を結ぶ周回観光ルートになり建設当初の目的が少し実現しているのを実感した。

 酒田に戻るのが目的でないから、峠からは引き返した。下りは逆光で正面に仙台神室が眩しい。二年の秋のフリーで京野リーダーの下、秋の三神歩道を歩いたことがあった。少しでも早くと急かされて磐司小屋を発ち、清水峠経由で仙台神室に立ったとき、見事に赤く色づいた県境稜線と中央鎮座する大東に圧倒された。


 二口番所跡スペースに車を止め苔むした石道をやや下る。すっかり成長した杉の木立でうす暗くなった処に二口小屋はあった。外観はもちろん、看板も内部も変わっていなかった。合宿時は泊まれず残雪期のフリーで逗留したことがあった。金子さんの指導でワカンを付け旧道の右手つまり沢筋でなく尾根を登って二口峠に出、下りは尾根筋の中間位置で仙台神室と日陰磐司の尾根を飽くこともなく眺めていたことがある。

 小屋にはもう一つ思い出がある。学部の山好きを誘って、1日目は奥新川から駒新を横切り大東を越え小屋に泊まり、翌日は龍に登って山寺に降りたことがある。この時二口沢の水で淹れた紅茶(オレンジペコのティーバッグ)がとても綺麗で美味だった。

懐かしい二口小屋( 翠雲荘またの名を伝蔵小屋 )


 表磐司歩道の私の思い出を振り返ってみたが、残念なことは磐司小屋から二口小屋に至る右岸の旧道と二口小屋から二口峠に至る樹林帯の登り道が見当たらない。部分的に旧道の痕跡は残っているはずだが私の記憶と今の体調では辿ることはできない。

 比較は無理だがTVで見た欧州の一本の道のように旧道を大切に保存する知恵と工夫がなかったことが残念でならない。

☆☆☆ おまけ ☆☆☆

山形神室から蔵王を望む( 出典:山形の広報紙 )
令和2年OB会報NO51より抜粋