里山探訪:北泉ヶ岳 - 桑沼コース
22期 (昭和58年卒) 土屋 範芳
 植松先生の後を引き継いでTUWVの部長を仰せつかっている22期の土屋です.引き継いだ初年度の2019年には,16名の大量入部があり,例年,数名の新入部員を確保するだけで精一杯だったTUWVでは,新人訓練用のテントやらさまざまな装備が大幅に不足し,現役部員からの悲鳴が届き,慌てふためいてOB諸氏から浄財をいただき大急ぎで装備を調えました.その時は本当にありがとうございます.ところが翌年,2020年はコロナ禍で新人勧誘は不可,そもそもキャンパスに学生の姿はありませんでした.コロナ禍は2021年も収まらず,新人勧誘ばかりでなく,技術・経験の継承もままならなくなっています.いやいや,とにもかくにも,このコロナは大学に限らず社会全体に大きな傷跡を残していますね.

 さて,山に登りだして40年以上たちますが,ブナの魅力が心にしみるようになってきたのは,かなりたってからです.岩稜に憧れ,冷水に抗いながらの滝登りに夢中になっていたことは,里山-低山のブナの森は退屈なアプローチルートに過ぎなかったですが,ようやく東北の山の魅力はやはりブナだということが心にしみるようになってきました.落葉広葉樹のブナは,密生しないので,適度な間隔があき,暖かみがある森ができあがります.我々になじみの深い泉ヶ岳から船形山にかけての山域は,実はブナがとても美しいです.実は,現役時代,このブナの森にそれほどの印象はありませんでした.ブナは,木へんに無しで,橅と書きます.役に立たない雰囲気の漢字なのですがその通りで,橅は曲がりやすいため建材としての需要は少なかったのですが,木材チップに加工して,ベニヤ材などに加工される技術によりその有用性が注目されだした木になります.日本初の世界遺産の白神山地のブナ伐採はまさにこの技術が災いしてました.

 さて,泉ヶ岳(1175m)は,我々にも,そして仙台市民にもとても身近な山なので,当然登山客も多いです.なので,狙い目は北泉ヶ岳(1253m)です.泉ヶ岳は山容は立派なのですが,北泉ヶ岳のほうが標高は高いです.まずはスプリングバレースキー場のゲレンデを上がります(古いOB諸氏にはこのスキー場を知らない人がいるかもしれませんが,1991年に北泉ヶ岳の麓に開発された,なんとなくバブルのにおいがするスキー場です).ゲレンデ上部から右のブナ林にはいり,沢沿いを歩くと泉ヶ岳と北泉ヶ岳の稜線に道は続いています.夏道はやや泉ヶ岳側につきあがりますが,残雪期は,北泉ヶ岳側の最低コルに直接導かれます.

 泉も北泉も火山です.安山岩質の熔岩とドームから形成されていて,仙台北部の七ツ森も火山ドームです.北泉からよく見える加美富士と呼ばれる円錐形が美しい薬菜山も火山ドーム.要するにこのあたりは実は火山が目白押しです.もちろん船形も火山です.これらのドームは,百万年から数百万年前の活動で,地質学的には現世の火山ということになります.火山ドームがボコボコと突き出る時代に生きていたらさぞかし恐かっただろうと思いながら北泉の北側稜線を一気に下ります.このあたりからのブナが特に美しい.ここは熔岩台地で,東側がかなり切れています.船形方面への分岐を過ぎると,桑沼の眺望地に出ます.桑沼は,熔岩台地が崩れた地滑り地形の窪地にできた沼なのでしょう.森の中のひょうたん型の湖沼で,正確な水深はわからないのですが,でき方からしてそう深くはありません.流れ込む川も流れ出す川もない小さな沼ですが,森の中にたたずみ,何となく神秘的で,しかしブナに囲まれどこかほっこりするところです.桑沼を眺められる地点は稜線上で一カ所しかありません.あとは木々が視界を遮ります.北泉からの下りが終えると大倉山に着きます.大倉山から急な熔岩壁を下降し,桑沼のほとりを通り過ぎて,林道歩きを続けると,スプリングバレースキー場にもどります.全長12km.高低差750m,5時間,約2万歩の周回コースです.新緑,紅葉,雪山と季節を問わずたおやかなブナ林を楽しめるお気に入りのコースです.

令和3年OB会報NO52より抜粋