松木沢ジャンダルム登攀
8期 (昭和44年卒) 佐藤 拓哉
ジャンダルム全景(中央下部の垂壁が取付き)


 秋も深まる11月、晴天を狙って松木沢ジャンダルムの岩場を登ってきた。岩壁としては決して大きくはないが、2006年にオギャーと二人で松木沢・黒沢にアイスクライミングに来た時に目にして以来、気になっていた岩壁である。当時の松木沢は足尾銅山の公害で山は枯れ果てて地肌がむき出しになり、本当に荒涼とした景観であった。アイスクライミングからの帰途、薄暗くなった荒れ地を鹿の群れが走り回っていた。当時と比べると山肌の草木が増え、紅葉を楽しむことができるようになった。最後の写真は、長年にわたって植林をされてきた方々が運営する茶屋で、無料でコーヒーをご馳走してくれた。「山が緑になってきましたね」と話すと、大変喜んでいた。

 ジャンダルムと言えば奥穂高岳が本家であるが、松木沢のジャンダルムもなかなか立派である。昔はかなり登られていたようで、古いハーケンやリングボルトがいたるところに打たれており、先人の熱い思いが伝わってくる。登攀のレベルが上がり、マイナーな存在となっていたが、最近はまた訪れるクライマーが増えてきたようである。アプローチが1時間強と短いのが魅力の一つである。

我々二人も、晩秋の冷たい沢を渡渉して岩壁の基部にたどり着いた。基部に立つと、遠くから眺めていたのとは違った迫力がある。谷川岳・一の倉沢衝立岩のような大きな一つの岩壁ではなく、いくつもの垂直の壁が折り重なっているような岩壁である。そのため高度感には欠けるが、ルートファインディングの難しさがあり、アルパインらしいクライミングを楽しむことができる。

今回は3日間で3ルート登った。最初の日は、比較的登られている中央壁の「直上ルート」を登った。名前からしても、このエリアの代表的なルートのように感じである。しかし、登ってみると、他の有名な岩壁とは異なり、ボルトなどはほとんど整備されておらず、古いハーケンやボルトがたまに出てくる程度であり、基本的には自分でルートを選び、クラックにカムを入れてランニングビレイとしながら登るので、アルパインクライミングの原点に戻ったような喜びがある。岩が脆く、特にテラスには岩くずが堆積しているため、技術的難しさより、浮石を掴まないようにし、落石を起こさないように神経を使うことになる。これもアルパインの一つである。

                直上ルート1P目のクラック


 ルートによって異なるが、6ピッチ程度で岩壁の頭に立つことができる。最後は、多少被った壁に走るクラックに沿って、ガバホールドを掴んで大胆に乗り越える。

 他に誰もいない岩壁の頭に立ち、午後の日差しを浴びる松木沢を見下ろすと、この岩壁を登ってきたという喜びが湧いて来た。
 植林されている方々が運営している茶屋「みちくさ」
令和3年OB会報NO52より抜粋